いわたとおる
（「波瀾万丈いわた書店日記」より）

その　１バレンタインデー

　毎年、バレンタインデーの前日にはウチの娘がカードをそえてチョコレートを準備する。閉店後、シャッターと自動ドアの間に積み上げた返品の荷物の上に載せておくのである。

　運送会社のトラックは真夜中から明け方にかけて配送している。人気の無い商店街で、シャッターを開けて荷物を降ろしていくのだ。一人っきりで返品を積み込み、荷物を降ろしていく。自分で数を確認し、預かったキーでシャッターに鍵を掛け、次ぎの店へ向かう。オハヨウ、ともゴクロウサマ、とも言われることの無い毎日。

　コンビニと郊外店の増加で件数は増え、一店あたりの個数は減った。競争の激化で、ギリギリまで下げられた運賃は、運転手に対するしわ寄せとなって跳ね返ってくる。
　ツルツルにシバレあがった路面に何度もヒヤリとさせられて神経を削られるような作業が続くのだろう。僕も、若い頃にトラックの配送助手をしたことがあるから、気持ちを推し量ることは出来るような気がするのだ。

　一年に一度くらい、「ホッ」として貰ってもいいじゃないかと思うのだ。今年のバレンタインデーは、荷物の配送が無い日だったので、チョコレートのプレゼントは翌日になってしまった。朝、シャッターを上げたら、メモ用紙にお礼が書かれてあった。
　小学校の先生のようなきちんとした字で書かれてあった。

　手がかじかむ開梱作業も、この朝はいくらか楽しくはかどったのである。明日は娘にクッキーは届くのだろうか？

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