この日、この時間、大阪・長居競技場では、２００２ワールドカップ一次リーグ突破をかけた、日本対チュニジアのゲームが、今まさにキックオフを迎えようとしていた。
日本中の目は、大阪・長居に向いていたのである。
が、しかし……
ここ、尼崎中央通商店街では、「そんなん、知らんもんね」だったのである。
だが、尼崎は燃えていた！
尼崎は、なにがあろうと阪神タイガースなのである。
道行く人に訊いてみた。
「あの……ナカダ、て、知ってます？」
「お？おお、マイクか？あいつもえーピッチャーやったのにの。」
「ワールドカップ、やってますよね？」
「ワールドは、えー服作ってはりまんな。」
「テレビ、見はれへんのですか？」
「テレビて……？今日は、なんもあらへんぞ。明日や！明日から甲子園で読売やからのぉ！気合いれなあかんぞぉ！」
……………………
ちなみに、この日、大阪や神戸の各商店街では、街頭にテレビが持ち出され、サッカーを観戦する人々で、その前だけは黒山の人だかりだったのだが、この商店街では、サッカーを放映するテレビには、１台も出会えなかったのであった。
…………！
な、なんと！尼崎では、すでに阪神にマジックナンバーが点灯していたのである！
日本一早く、阪神にマジックが灯った街・尼崎！
が、しかし……
これ、もし優勝できなかったら、どうするんだろ？
素直な疑問を、某商店主にぶつけてみた。
「そら、お前……！あほォ！縁起でもないこと言うなーーっ！……けんど、もし優勝できなんだら、や、な……そんときは、お前、マジック１４０から、またやり直しじゃ〜〜〜〜っ！」
もう、祝ってしまっている……
尼崎では既に、阪神優勝は、当然あるべき規定の事実として認識されているのである。
ちょっと読みづらいが、この垂れ幕、下の方には小さく「阪神優勝から７日間」と、「一応」のエクスキューズはあるのではあるが……
熱い！あまりに尼崎は熱い！もうなにも言うことはありましぇん！
「参った！降参だ！」
日本中の目がワールドカップに注がれるのを尻目に、一人、阪神に熱く燃える尼崎を、赤い夕日が包み込むのであった。